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深澤孝史『越後妻有民俗泊物館』

 民俗泊物館の拍が泊まるっていう字なんです、と、係の人物が解説してくれる。越後妻有民俗泊物館は、必ずしも美術作品を収蔵する場所ではない。一般の歴史資料館のよう資料を収蔵する場所でもない。一般公募によって集められた民泊研究員が、越後妻有の特徴的な民家に一泊二日のホームステイをし、そこで発見した暮らしぶりの資料を借りたり、あるいは再現したものを収蔵しているのだ。
 収蔵品は多岐に渡る。このあたりではただ一軒になってしまった鯉の養殖池、冬季保存用の野菜の瓶詰、保育園に勤めていたお母さんの娘を描いた絵。研究員たちがそれぞれの視点で収蔵してきたのは、二重の意味で一般的な資料ではない。まずそれは、「隣の家はウチとちょっと違う」というような、ごく素朴なその家庭の独特の生活スタイルや出来事の刻印がみえるものである。人がたくさん来たから使ってないキャンバスを裏返しにしてお盆にするなんていうのは、やはりちょっと笑ってしまう。そしてその生活は、多かれ少なかれこの地域の風土や歴史を反映したものである。そのキャンバスがあることそれ自体が、このお母さんがこの土地で暮らしてきたからこそそこにあるように。
 象徴的な展示品があった。駒返の今朝松さんが、信濃川発電所を定年後に始めたという藁仕事だ。かつて藁工芸と農家の暮らしは一体のものであったが、彼が始めたときには既に、生活と結びついたものではなかった。定年後に、物質的なだけではない豊かさだけではない暮らしを見直そうと始めたという。現在は観光の体験道具やお土産品、しめ縄などを作っており、彼の工芸の歴史はもう20年ともなる。
 外から人がこの町を訪れるとき、その歴史はさも一本の途切れることのない線的な時間のように見えてしまう。しかしその中には絶えず断絶があり、またときにはその断絶を繋ぎなおそうという尽力や、逆に何の気なしに始めてしまった気まぐれがある。現在の暮らしを収蔵するこの泊物館の資料たちは、鑑賞者に距離的にも時間的にも近く、それでいて確実に隔たっているそれぞれの暮らしを見せてくれる。全体を覆うユーモラスな雰囲気は、こうした隔たったわたしたちの暮らしが、それでも今もともにあるということへの信頼感からきている。あらためられた共に生きているということの確信が、研究員たちの民泊のまなざしには宿っており、その視線こそが彼らの研究員としての最大の成果だ。
 ある家庭にあった、夕顔が展示されている。食べる以外にも乾かすとひょうたんになるのだとお父さんが説明してくれたらしいが、お母さんによるとお父さんはそんなこと自分でやったことはないという。しかしお母さんもやったことはないそうで、ではどうしてこの夕顔を乾かす方法をこのひとたちは知っているのだろう。この夕顔はどうなっていくのだろう。案外と歴史はこうして現在に転がり込んでいる。その現在の姿を、わたしたちはこの奇妙なあたりまえの博物の館でみていたのだ。


大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015出展作品
深澤孝史『越後妻有民俗泊物館』
新潟県十日町市本町 十日町産業文化発信館 いこて2階
2015年7月26日-9月13日
http://homestaymuseum.net/
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