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YUKO OZAWA 『VANISHING POINT』 於:Gallery Barco


 この小さな個展の鑑賞者は、まず一枚の紙に印字された散文に出迎えられる。それは脇に展示されたささやかな作品たちのキャプションのようでもある。それを読み、改めて作品を眺める。テクスト内の現実と鑑賞者が直面する現実は、いくつかの点で相違がある。それぞれの現実は、その相違を保ったまま進行していく。
 テクストによれば「誰もいない部屋」のはずのこの空間の正面には、ひときわ大きな映像作品がある。ピアノを弾く女性を大写しにしている。その後ろにもうひとり女性がいる。彼女はやがてその場を離れていく。ピアノを弾いている女性は、やがて演奏に併せて歌い始める。もうひとりの女性が戻ってくる。彼女は水の入ったコップを持っていて、それを置く。ピアノを弾いていた女性は演奏を止め、それを飲む。この一連の様子を、カメラは捉えている。
 しかし、作品を観た鑑賞者が知っているのはそれだけではない。鑑賞者はコップを持った女がどこへ行っていたのかを推察することができる。映像と同期していた音が、その画面から消えていく女を追従するからだ。聴覚と視覚のカップリングは解消され、音は画面外のもうひとつのイメージへと鑑賞者を誘う。足音、つぶやく声、水の音。断続的に提示されるもうひとつのイメージを経て、鑑賞者の前にあらわれたコップの水は、視覚的に享受したそれとは別の物語を伴っている。
 女の足音が去ったあとに、歌が聞こえ始める。一見するとピアノ奏者が歌っているように思えるその歌も、ここではない別の場所から到来したものなのかもしれない。確定的なアリバイを持てないまま鑑賞者が受け止めるポエジーは、見えているものでも聞こえていることでもなく、その間の不確定な揺らぎにこそある。そしてその揺らぎの中には、また別の現実の可能性が幾重にも想起されていく。

YUKO OZAWA  SOLO EXHIBITION『VANISHING POINT』
Gallery Barco(東京都葛飾区亀有 http://www.g-barco.com/)
2015.9.3 -13
http://pa03040yo.web.fc2.com/xiao_ze_yu_ziYukoOzawa/xiao_ze_yu_zi.html

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